2019.10.09働き方ポケットノート
働き方こぼれ話~ノイシュバンシュタイン城に入れなかったわけ~
目次
ノイシュバンシュタイン城に入れなかったわけ
今回は、働き方をめぐるこぼれ話。
「ドイツに働き方を学ぶ」というフレーズをよく耳にします。
かれこれ30年以上前、オランダから欧州に入り、ベルギー、ドイツ、オーストリアへ旅行したときの出来事。
ドイツにあるノイシュバンシュタイン城の麓に着いたのは夕方。観光馬車のおじさんに添乗員さんが声をかけるも「家に帰る」と言って、私たちを馬車に乗せてくれませんでした。仕方なく徒歩でやっとこさ、お城の前に辿り着いたときには正門は閉められ、入ることができませんでした。
東の国からやって来た20名近くを乗せればそれなりの収入になったであろうに、馬車のおじさんは「正門に行って戻ってくれば就業の時間を超える。だから、乗せない。収入よりも家族との時間を大切にしたい」と判断したのでした。
私たちツアー客がノイシュバンシュタイン城に入れなかった理由は、この1点です。
NOを言えた馬車のおじさん。
どうして市井の人がこのような対応ができたのか、馬車のおじさんに代表される働き方とはなにかを探ってみましょう。
社会の仕組みも考え方も異なるドイツ
1. 労働時間に関する制度面
ドイツの労働時間貯蓄制度は残業時間を貯蓄し、ある程度たまったら有給休暇として取得できる制度。
残業分は割増賃金でなく休み、残業代を稼ぐために労働者が長時間労働をするインセンティブをなくすことができます。残業代を払いたくないという企業側の本音にも合致。季節により労働需要の短期的な変動にも、従業員の増減やコストの上昇なしに対応できる自由度の高さがあり、終身雇用を前提とする製造業に受け入れられています。
2. 休暇を取得する意識の高さ
ドイツでは、年次有給休暇は24日付与されています(企業により30日も)。有給取得率も高く、3週間程度のバケーションをとることもできます。経営者や医師、パン屋なども普通に3週間の休暇を取得しているそうです。日本では、総合旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」が実施した、世界30カ国の有給休暇の国際比較調査によると、有給消化率が2年連続で世界最下位。 日本では、仕事を休んで、周りに迷惑をかけたくないという意識が強いためか、同調査によると有給を取得するのに罪悪感を感じている割合が最も高い結果になっています。ドイツでは有給休暇と病気での休暇は分かれているため、病気で有給を取得する必要がありません。
3. 組織がフラットで、ヒエラルキーが強くない
ドイツでは役職 = 役割という認識が強く、マネージャーにしても、CEOにしても役割を与えられていると考えています。 そのため、現場の社員でも対等に物事を主張することができます。 上司の顔色を伺うという非生産的な労働がありません。
4. 明確な職務内容と権限委譲
ドイツでは職務内容が細かく定義されるため、何をやって何をやらないのか明確になっています。上司が部下に対して、「明日までにこの資料を作っといて」と指示を出しても、部下は「これは、私の職務内容で定義されていない」と拒否することもできます。ドイツでは権限委譲が進んでいるため、自分の裁量の中で意思決定ができます。上司への報告に要する時間がないことも生産性に繋がっています。
5. 労働者の自立・独立の意識が強い
ドイツでは10歳で自分の進路を決めなければなりません。小学校が4年制、卒業するまでに3つの進路を決める必要があります。①基幹学校(5年または6年制)から職業訓練コース、②実科学校(6年制)から職業専門学校または上級専門学校、③9年制の中高一貫校で大学入学資格取得後、大学、3つのコースのいずれかを選びます。小さいことからキャリア教育を受けているため、主体的にキャリアを築いていく意識が高いのです。
ドイツの生産性が高い理由
上記の図は「労働生産性の国際比較2016年版」を参考に作成した、ドイツと日本の比較です。
ドイツは自動車を中心とする技術大国。中国、米国に次ぐ世界第3位の輸出大国です。第4位の日本と比べると輸出額は2倍以上になります。中国や米国に比べ、人口が少ないドイツが世界第3位の輸出額を誇っている理由は、圧倒的に付加価値の高い商品を世界に提供しているからに他なりません。
ドイツは日本よりも、年間休日数も多く、年間労働時間が350時間少なくない状況です。日本人はドイツ人よりも多く働いているにも関わらず、労働により生み出す価値が小さいことがわかります。
まとめ
ドイツと日本の違いに愕然とします。
社会の仕組みそのものの違いがある中、日本において生産性をあげるため、残業時間を抑制し、長時間労働を是正すれば良いという問題ではありません。
真に働き方改革を実現していくには、
国による法律の整備、
企業による環境整備、
個人の働く意識の変化、
この3つを変えていく必要があります。
遅れを取ったとはいえ、日本でも法律が成立し、少ないとはいえ、企業の側でも環境整備が整いつつあります。
最後の難関は、人の意識です。
馬車のおじさんのように、自分の考えで行動を選択できる人、つまり、自分の仕事に対して忠実、かつ範囲を超えた業務にNOが言える人が増えることが求められるのです。
せっかく始まった日本の働き方改革、この歩を止めてはなりません。
参考:
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